甘く熱い余韻と切ない現実

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「いいですか? いくら悠美お嬢様が語学留学の経験があるおおらかな性格な方でも、行っていい場所と悪い場所があります。立ち飲みだなんて、そんな酔っ払いばかりが集まる場所にお嬢様を連れて行くだなんて……!」 「あー、もうわかった、わかった。行かない、行かないよ」 まだそれ以上喋り続けようとする後藤の声を遮って、俺はため息をつき眠る振りをした。 実はいつもこの衝動に駆られた時は後藤が帰った後、一人でこっそりと美子ちゃんが連れて行ってくれたあの立ち飲みバーに足を運ぶ。 彼女が唯一、俺にだけ教えてくれた場所。 それは、俺にとってもかけがえのない秘密の隠れ家となっていた。 でも、たまにしか行けないせいか、それとも俺に教えたせいか、美子ちゃんと会えたことはない。 神様っていうのはよく見ていると思う。 彼女を傷つけた俺に、そんな都合よく再会する機会なんて与えてくれないのだから。
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