甘く熱い余韻と切ない現実

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夜の暗い色の中でギラギラと光る部屋の明かりを見ると、そういう展開を強制的に期待されている気がしてげんなりしてしまう。 昔なら綺麗な女の子を連れて喜んで足繁く通ったホテルも、今じゃ何の意味もないただの部屋だ。 大切な人と共にいなければどんな豪華絢爛な場所でも、空っぽの空間でしかないと今はそう思ってしまう。 「……行くか」 それでも、自分の兄も父親も一条の人間としてこういう道を歩んできたんだ、と気合いを入れ直し、相手が待つホテルのロビーへと足を進める。 ドアマンにエスコートされ、目が痛くなるような光が灯るロビーの中央にある一人用のソファに待ち人は座っていた。 明るいベージュカラーに大きく巻かれたロングヘアー。 華やかなメイクでカラーコンタクトをしている瞳の先には、高級ブランドのスマホケースを持ってそれを見つめている。 そのスマホに真っ赤に塗ったネイルで何やらメッセージを熱心に打ち込んでいる派手な女。 この人が俺が結婚する相手だ。
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