甘く熱い余韻と切ない現実

38/45
前へ
/425ページ
次へ
「今日も派手だな……」 ポツリと本音を呟いてしまった。 昔ならこういう派手な女の子が好みのタイプだったのに、自分でも随分と気が変わったのだと最近は驚くことが多い。 今の自分が選ぶとしたらどういう女性だろう…… そう考えた時、一瞬あの子の顔を浮かべそうになって、即座にその想像は頭の中から消し去った。 (女々しすぎるだろ、俺) 後頭部を何度か掻き、心を落ち着けたあと、待ち人の方に向かって歩き出す。 でもその人は俺の靴音がすぐそばで聞こえるくらいの距離にあっても、一度もこちらに振り向かない。 どれだけスマホに必死なんだよ、と心の中で毒づき、「お待たせしてすみません」と優しい男の声を出した。 「あっ、ううん、大丈夫。ちょっと待ってー、このメールだけ送っちゃうから」 緩い声で応え、高速の指の動きでメッセージを次々と作り上げていくその動作を見て、俺はある意味感心のため息をついた。
/425ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11049人が本棚に入れています
本棚に追加