11037人が本棚に入れています
本棚に追加
「よし、じゃー決まり! 藤堂のバカを見送ったらタクシーを回すからエントランスホールで待ってて」
「えっ? あの男を見送るの? どうして?」
逃げるようにここから立ち去った藤堂なんて見捨てておけばいいものの、一条は律儀に見送るというこの男の考えがわからなかった。
「俺だって美子ちゃんみたいな可愛い女の子を一人で待たすのは気が引けるんだよ? でもアイツがこのまますんなりと帰ってくれればいいけど、そうだとは限らないだろ? だから俺が乗ってきた車にアイツをぶち込んで、運転手に真っ直ぐ家まで帰るように伝えてくるから」
「だから絶対に待っててよー」と言って、一条は私の手をギュッと握ってから駆け足で先にこのフロアから出た藤堂の後を追いかけていった。
「……正真正銘のバカではなさそうね」
それが今日わかった新しい一条の一面だった。
最初のコメントを投稿しよう!