「lesson01」

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 たっぷりと空気を含んだ生地は、甘いチョコレートでコーティングされ、散りばめられた野いちごの赤のコントラストが食欲をそそる。  このケーキを口にするのは、今日で十二回目。  フォークを突き立てると、パリンとチョコレートが割れる音がした。  ──美味しい!そう言って、顔を上げるとシスターがテーブルで頬杖をつきながら、満面の笑みでこちらを見つめていた。    「ミア、お誕生日おめでとう。さあ、皆で大きな拍手を送りましょう」  シスターの隣で、デコボコに並んだ子供たちが一斉に拍手をする。自然と笑みがこぼれ、拍手の音よりも大きな声で私は言った。  「皆、ありがとう!」  此処は、孤児院。つまり、私は親のいない孤児だ。物心ついた時から、此処でシスターや子供たちと暮らしている。毎日、賑やかで笑いの絶えない暮らしに不満はない。  けれど、時々どうしようもなく胸が苦しくなるのは、会った事も無い父や母を思う時。  寂しいような、怖いような、そんな気持ちになってしまうから、普段はなるべく考えないようにしている。  きっと、私だけじゃない。此処にいる皆が、同じ境遇のもとで生きている。互いに思いやり、支え合いながら生きていけば、いつか幸せになれるはず。  いつも、同じケーキであるのも、皆が喧嘩をしない為だ。  ──誕生日会の後片付けをしていると、シスターが思い出したように私の名前を呼んだ。  「神父様が、新しい本の寄付を頂いたって言っていたよ。図書室にしまってあるから、後で見てみたら?」  「本当に?私、すごく楽しみにしてたの」  「ミアは本が好きだよね。また、あまり夢中になって、消灯時間まで読み耽っては駄目よ」  「分かってます!消灯時間までには、お部屋にちゃんと戻るから、心配しないで」  本当かな?と首をひねりながらシスターは笑っていた。私は、すぐに本の事で頭がいっぱいになって、片付けが終わると、すぐに図書室へ向かった。                        
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