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出会い
この世の中には魔狼がいる。
ケルの生態はよくわかっていない。以前はたまにしか見なかった。人を食べる能力があるとは知られていたが、滅多に人を食べることがなかった獣。
それが大発生し始めたのが、数十年前。
急速に増えたケルは人を殺すようになった。
もちろん人間は黙っておらず、ケルハンターを組織し、ケルを狩る専門の部隊を組織した。
魔狼には特有の匂いがある。
匂いを感じ取れるかどうかは、人による。
だが、ケルハンターには絶対の資質というわけではない。あった方がいいという程度のものだ。
踏み込んだ家で、高階トキヤはケルの匂いを感じた。
そして、ケルの匂いとはまた別の匂いを嗅ぐ。それは、トキヤ以外のケルハンターにも慣れた匂い。
人が捕食される匂いだ。
トキヤを含むケルハンター達はもちろん今更そんなことで心を乱さない。
トキヤの後ろから、四つん這いの裸の獣のようなものが歩いてきた。
「使い魔」である。
トキヤはそれを見て、顔をしかめた。
実際恐ろしい姿をしていた。
人と同じ色と質感の肌、部分部分に生えた、人と同じような黒髪。
なのに、その形は人ではない。
ねじれた四つの足が地面についている。口に相当する期間から、泡のようによだれが落ちた。
その首からは、数本の「制御棒」が突き出している。
バーケルはケルの一種である。
ただし、小さい頃から人に飼われて、操るために「制御棒」を埋め込まれているのだ。
バーケルロー、と呼ばれる主人達の言うこと以外は聞かない。
バーケルローが、バーに触り、バーケルに指示を与える。
バーケルは部屋の奥に飛び込み、獣同士が威嚇しあう声を上げる。
トキヤは先頭になり、部屋の中に入り込む。
唸り声が上がる。そこには犠牲者の遺体の上にバーケルがいた。
歪んだ四肢。不自然に大きい顔、ランダムに生えた黒い毛
醜い、なんて醜い。
ケダモノが擦れるような叫び声をあげるその体に銃弾を打ち込む、ケダモノの醜い姿はバラバラになり、血しぶきがトキヤにかかった。
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