出会い

1/10
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/64ページ

出会い

この世の中には魔狼(ケル)がいる。 ケルの生態はよくわかっていない。以前はたまにしか見なかった。人を食べる能力があるとは知られていたが、滅多に人を食べることがなかった獣。 それが大発生し始めたのが、数十年前。 急速に増えたケルは人を殺すようになった。 もちろん人間は黙っておらず、ケルハンターを組織し、ケルを狩る専門の部隊を組織した。 魔狼(ケル)には特有の匂いがある。 匂いを感じ取れるかどうかは、人による。 だが、ケルハンターには絶対の資質というわけではない。あった方がいいという程度のものだ。 踏み込んだ家で、高階トキヤはケルの匂いを感じた。 そして、ケルの匂いとはまた別の匂いを嗅ぐ。それは、トキヤ以外のケルハンターにも慣れた匂い。 人が捕食される匂いだ。 トキヤを含むケルハンター達はもちろん今更そんなことで心を乱さない。 トキヤの後ろから、四つん這いの裸の獣のようなものが歩いてきた。 「使い(バーケル)」である。 トキヤはそれを見て、顔をしかめた。 実際恐ろしい姿をしていた。 人と同じ色と質感の肌、部分部分に生えた、人と同じような黒髪。 なのに、その形は人ではない。 ねじれた四つの足が地面についている。口に相当する期間から、泡のようによだれが落ちた。 その首からは、数本の「制御棒(バー)」が突き出している。 バーケルはケルの一種である。 ただし、小さい頃から人に飼われて、操るために「制御棒」を埋め込まれているのだ。 バーケルロー、と呼ばれる主人達の言うこと以外は聞かない。 バーケルローが、バーに触り、バーケルに指示を与える。 バーケルは部屋の奥に飛び込み、獣同士が威嚇しあう声を上げる。 トキヤは先頭になり、部屋の中に入り込む。 唸り声が上がる。そこには犠牲者の遺体の上にバーケルがいた。 歪んだ四肢。不自然に大きい顔、ランダムに生えた黒い毛 醜い、なんて醜い。 ケダモノが擦れるような叫び声をあげるその体に銃弾を打ち込む、ケダモノの醜い姿はバラバラになり、血しぶきがトキヤにかかった。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!