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『エヴァゲストハウス』
東欧の街では、住宅の一部を旅行者に貸し出す民泊というシステムがある。ブダペストの東駅に初めてやってきた時に、この手の民泊の客引きを何人かみかけた。ここもそのたぐいの宿で、わざわざ日本語で書いてあることから日本人をメインターゲットにしているのは明らかだ。
ノックをすると、日本人の女の子が出てきた。僕より少し上にみえた。
「ここって、ゲストハウスですか」
「そうだけど、いま空きベッドあるかな。とりあえず中に入って。エヴァに訊いてくる」
玄関のすぐ先にはキッチンがあった。シンクには水が貯められていて、食器が無造作に突っ込まれている。宿泊者が共同で使えるようになっているようだ。
「今日ひとりチェックアウトしたから泊まれるってさ。どうする?」
「ちなみにいくらですか」
「一泊二〇〇〇フォリントだよ」
日本円なら八〇〇円ぐらいだった。いま泊まっているホステルよりもはるかに安い。民泊に泊まるのは初めてだったが、宿を移ることに決めた。もちろんその値段が理由ではなく、石井と思われる男と話してみたかったからだ。
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