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 キッチンの奥にあるドアを開けると、十五畳ほどの部屋があり、五つのベッドが平行に並べて置かれていた。まだ寝ている人が二人、使用した形跡があるベッドは三つ。 「奥の窓際。あれがあなたのベッド。いま、シーツ持ってくるね。ベッドメイクは自分でやってね。あ、あたしはタカコ。あなた名前は?」 「広瀬、広瀬仁です」 「ジン君ね。よろしく。あたしはここの管理人をやってるの。あ、パスポートとかいちいち見せなくていいから。毎朝宿代だけ払ってもらえればいいよ。週払いだと一泊分タダになるけどどうする?」  その言葉にちょっと惹かれたものの、とりあえず一泊分だけ払うことにした。 「ついさっき帰ってきたばかりの、日本人の男の人ってこの部屋じゃないんですか」 「あ、ケイ君のことかな。彼は個室の方に泊まってる。日本から短期で来てるから財布に余裕があるんだよね。あっちは一泊六〇〇〇フォリントもするんだけど。ケイ君とは知り合い?」  思わずうなずきそうになるが、思いとどまった。 「いや、別に」  名前も「ケイ」だ。石井圭一郎だと確信した。あのドアの向こうに高校時代に二度に渡り辛酸を舐めさせられた男がいる。ノックをしてみようかと考えたが、いちど荷物を取りに昨晩泊まったホステルへ戻ることにした。まだ午前中だから、いま戻れば今晩の宿代を重複して払わずに済む。
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