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   ホステルへの戻り道、高校を卒業してからいままでのことを考えた。  華やかな道をゆく石井とは対照的に、僕は、何をやっても上手くいかなかった。大学で将棋を続ける気になれず、かといって他に打ち込めるものも見つけられなかった。授業を完全にサボるわけでもなく、週三日程度は大学に顔を出し、残りの日はカラオケ屋でのバイトに明け暮れた。就職もこれといって希望する業種は無かったが、どうにか銀行系オートリース会社に拾ってもらえた。試験前にノートや過去問をかき集め、一夜漬けながら頑張ったおかげで、成績だけはそこそこよかったのが幸いしたようだ。だが、そうして入った会社も五年で辞めてしまった。上司とどうにも反りが合わず、売り言葉に買い言葉で退職願を出したところ、慰留されることなく会社を去ることになった。後悔がまったく無いわけでは無かったが、三百万円ほどの貯金があったので、気持ちにまだ余裕があった。すぐに再就職先を探した方が賢明だとはわかってはいたが、二十代の最後に世界を見て回りたいという思いがわいてきた。学生時代のバイトの同僚がバックパック旅行好きで、彼の冒険譚を度々聴かされたことで、外国に対するぼんやりとした憧れがあったのかもしれない。  日本を離れて半年が過ぎたが、思った以上に金が減るのが早かった。イスタンブールから北上し、ヨーロッパに足を踏み入れると、もう貯金は二百万を切っていた。帰国後に待ち受ける再就職活動の資金を考えるとすべて使い切ってしまうわけにはいかない。あとどのぐらい旅をできるのだろうか。持ち金が減るに従い、旅行者らしく観光する気も薄らいでいった。安宿のドミトリーに泊まり、スーパーで買い出しをし、食費を極力抑え、暇な時はただ街をぶらぶらするという己の堕落した暮らしぶりが情けなくなってくる。
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