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文化祭の翌週の日曜日である今日、魁くんと2人で海浜公園に来たけど、あいにくの雨だ。
でも、伊勢さんと来たときは数珠つなぎだった観光客も、雨のおかげか今日はまばらでゆっくり歩ける。
「なんか、ごめんね。雨なのに」
コキアの丘に立って、魁くんは申し訳なさそうに眉を下げた。
「ううん。ありがとう。私のことを憶えていてくれて。この景色を見せるために私を誘ってくれて」
魁くんを見上げてニッコリ笑うと、魁くんもホッとしたように微笑んだ。
「ふーちゃんのその笑顔が見たかったんだ」
優しい言葉に自分の顔が赤くなったのを感じた。
どうしよう。私、魁くんのことが好きだ。すごく好き。
付き合っている人がいるか、訊いてみよう。好きな人がいるかどうかも。
それでいないって答えたら、私にもチャンスがあるかもしれない。
ドキドキして傘を持った左手を胸にギュッと押し当てる。
そんな私の様子を魁くんが不思議そうに見ていた。
「せっかくの日曜日なのに、私なんかと一緒にいて大丈夫? 彼女に怒られない?」
「え? 彼女なんていないよ。いたら他の女の子を誘ったりしないよ」
「だよね」
ホッとして、期待に胸が高鳴る。魁くんの今の言い方だと、一応は私のことを”女の子”だと認識しているみたいだ。ただの昔の同級生ではなく。
私たちのすぐ前を歩く若い男女が、ごく自然に手を繋いだのが目に入ってドキッとした。
これまでの私だったら、人前でイチャイチャするなんてと冷ややかな目を向けただろうけど、今は何だか羨ましい。
「あ、ここが絶景ポイントなんだ。写真撮らせて」
魁くんが立ち止まってカメラを持ち上げたから、私は魁くんの隣に並ぶように立った。
「傘、持っててあげる」
「それじゃあ、ふーちゃんのこと撮れないでしょ。あっち側に立って」
「え? 私を撮るの?」
「もちろん」
風景を撮るのかと思ったのに、魁くんは真っ赤なコキアの丘をバックに私を撮ってくれた。
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