青いクレヨン

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「よその学校の文化祭に行くのに、なんで制服着て行くの? 私服でいいんでしょ?」 友達との待ち合わせに遅れそうで焦っているのに、ママは玄関でそんなことを訊いてきた。 「私服考えるの面倒だし、制服の方が可愛いもん」 「それもそうね。あっ、ママは今日はデートだから、夕ご飯は適当に食べてて」 「はいはい。じゃ、行ってきます!」 「行ってらっしゃい」 駅まで走るのも、私服だと恥ずかしいけど制服だとそうでもない。不思議なものだ。 恋多きママも今度こそ結婚まで漕ぎ着けそうだ。上手くいけばいいなと応援している私は、結構大人だと思う。 小さい頃は見えなかったことが、最近はよくわかるようになってきた。 交通事故で死んだパパのことを悪く言うママが嫌いだった。 若作りして、パパじゃない男の人にベタベタするママはもっと嫌いだった。 ママもママの彼氏も私を邪魔者扱いはしなかったけど、居心地が悪かった。 でも、今ではママの気持ちがわかるような気がする。 事故を起こして死んだ時、パパは1人じゃなかった。 一緒に死んだ不倫相手は女子高生で、パパとは出会い系サイトで知り合ったらしい。 「遅いよ、ふー」 「ごめんごめん」 「今日はふーのためにみんなで一高に乗り込むんだからね!」 ”乗り込む”なんて大袈裟なと思ったけど、他の4人は大真面目な顔で頷き合っていた。 笠井一高はT大に行くような天才・秀才が集まった高校だ。うちらみたいな平均的学力の南高生には敷居が高いのは確か。 それでも制服のない一高の文化祭に敢えて南高の制服で行くのは、うちらにもなけなしのプライドがあるからだ。うちの制服はメッチャ可愛いし。 「とりあえず2年の教室を見て回ってから、写真部に行ってみる。それでいい?」 仕切り屋の里桜(りお)の言葉に大きく頷いたけど、何だかドキドキしてきた。
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