青いクレヨン

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2年の教室を見て回ったけど、(かい)くんらしき人はいなかった。 コキアの丘でチラッと見ただけだけど、たぶん見分けられると思う。 だって、女の子みたいに綺麗な顔をしていたから。 「ふー、いた?」 「ううん」 「じゃあ、あとは写真部だね」 里桜が正門でもらった文化祭のパンフレットをパラパラとめくる。 「ねえ、お腹空かない? どこかで食べようよ。さっきのところのパンケーキとか」 「うん、美味しそうだった!」 「私、最初に見た流しそうめんがいい」 「あー、あれも捨てがたい」 3人がもう一冊のパンフレットを見ながら、どこで食べるかの相談を始めた。 それを横目に私は何だか焦ってきた。 魁くんに会えないのかな。 今日、絶対会えると思って、髪だって可愛く編み込みしてきたのに。 「あった! 2号館の2階。生物室だって。このパンフ、わかりにくい!」 里桜が怒るのも無理ない。 校舎の見取り図もないし、字が小さすぎる。 視力の悪い私は最初から諦めて、里桜に頼ってしまっていた。 そう。実は私は普段メガネをしている。 だけど、今日は少しでも可愛く見られたくてメガネをしてこなかった。 今度、コンタクトにしたいってママに相談してみよう。 今はとりあえずみんなに助けてもらって。 生物室に入るとドアのすぐ脇に2人の男子が座っていた。 ドクンと心臓が跳ねる。丘で見た子だ。 「ちわー」 受付に座る魁くんらしき男子は、里桜好みのイケボだった。 「ちわー」 挨拶を返しながら、みんなが私をこっそり肘でつつく。 「イケメンじゃん。頑張れ」 囁きながら、みんな私と距離を取るように散らばった。 彼の写真はすぐに見つけられた。 コキアの真っ赤な大地。抜けるような青空。海に降り注ぐお天気雨。 どれも魁くんらしいと思った。 でも、本当に魁くんだろうか。 彼と一緒に過ごしたのは1年にも満たないし、5歳のときの記憶なんて当てにならない。 話しかけて、もしも人違いだったら恥ずかしい。 その時、写真の下に何か貼ってあるのが見えた。 字が小さくてよく見えない。やっぱりメガネをしてくれば良かった。 『橋爪 魁人』。目を凝らしてやっと読めたその名前に、私は思わず「あっ!」 と声を上げた。
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