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開け放たれたドアの向こうの廊下は賑やかなのに、カーテンを閉め切った生物室はやけに静かだ。
「客、来ねえな」
「呼び込みに行ってくる?」
隣に座った落合とさっきから同じことを言い合っている。
2年に1度の文化祭は大賑わいなのに、写真部の展示を見に来る人はほとんどいない。先生方がたまに覗きに来てくれるだけだ。
「生物室っていう場所がまたな。人を寄せ付けないって言うか何て言うか」
「呼び込み行ってくるか」
『受付』と書かれた席から一歩も動かないまま、僕たちは早く交代の時間が来ないかなと時計をチラチラ見ていた。
どうせ誰も見にこない。そんな諦めムードが漂っていた。
「ここだよ、ここ!」
廊下からそんな声がして、南高の制服を着た女子が5人も入って来た。
一体、何の奇跡だ?
しかも、こんな地味な展示をわざわざ見に来るとは思えないようなハイスペックな女子たちだ。
艶やかなロングヘアー。くっきりした目鼻立ち。スラッと細い身体。
落合なんか口をポカンと開けて固まっている。
「ちわー」
「ちわー」
挨拶すると全員が返してくれて、なぜかホッとした。
写真部の部員は8人で、展示も部員ごとに分けていた。
当然、来場者が自分の展示コーナーを見るときの反応が気になる。
5人は思い思いのコーナーに足を向けて、写真を見ていた。
意外にもみんな静かに写真と向き合ってくれている。
1人の子が僕のコーナーでじっと立ち止まっていた。
どんな反応を示すのか気になって見ていると、その子が突然あっと声を上げた。
他の女子たちも落合も何事かというようにその子を見た。
その子はズンズン歩いてきて僕の正面に立ったから、僕は思わず椅子ごと後退ってしまった。
「魁くん? ……だよね?」
「え?」
「魁くんでしょ? 橋爪 魁人」
「……そうですけど」
見知らぬ女子に呼び捨てにされて、僕は小さくなって頷いた。
「私、神野 芙蓉。憶えてる?」
「ふーちゃん⁉」
嬉しそうに頷いたふーちゃんの笑顔には、確かにあの頃の面影が残っていた。
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