歌番号 17

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「業平様は今日も来て来れないのかしら。」 秋も深まり、夕日が御簾の隙間から黄金色に長くさす。 日が暮れてしまえば、業平様を待つ長い夜がはじまる。 私は何故あの夜業平様を受け入れてしまったのだろう。いや、私が誘ったのかもしれない。それは私の罪だ。 あの日、御所では庭に引いた川の上の橋の上で業平様は紅葉の前で舞を踊った。その美しさは見るもの全てを魅了した。 その川は、私のの部屋の下を通って、 ぬけるような青い空をそのまま川の色として、所々赤く染めたような紅葉が流れる上に業平様が舞う橋がある。 業平様が橋を降りるころ、私はそっと歌をしたためた紙を折り紅葉に乗せた。 秋の夜の月影映る竜田川 舞い散る紅葉に君を思ふ 業平様がその歌を見たのか、その夜、 君がため紅葉ひとひら舞い降りて 有明の月を待ちいでつるかな。 と御簾ごしに歌いながら来た。 「こんな年増の戯れを本気にしてはなりませんわ」 と言いながら、私は業平様が御簾を開けて入るのを拒まなかった。 「何をいいまする、伝説の紅の君を拝見するまでは帰りませぬ。」 私は開かれた御簾の月明かりにさらされた。 「お美しい、その艶やかに光る黒い髪、白いなめらかな肌、まるでこの世のものとは思えません」 業平様はその後ひと月近く私のもとから離れなかった。 違う。そうではない、私が離れさせなかった。 しかし、一度私の元から離れると決して戻っては来なかった。そう、まだ若い妻のもとにもどってしまったのだ。 離れてしまえば、私の妖術は届かない。 私は下男を使い彼の若い妻をさらいその血を川にながさせた。そう私は新月になると川に戻り龍となり、私は若い女の血を皮膚に蓄えて、浮かび上がった血潮は美しく浮かびあがる。 ちはやぶる神代もきかず龍田川 唐紅に水くくるとは
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