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「……あの?」
「!」
半年掛けて、五条龍也が、現在住んでいる場所を調べ上げ、復讐する為に彼のマンションまでやってきた。
すると、突然見ず知らずの髪の長い女の子が自分に声を掛けてきた。
最初は、マンションの住人かと思い、背筋に冷たい汗が流れた。
しかし、自分に声を掛けて女の子は、左手に小さなガイドブックを持っていた。
(…なんだ観光客か? 道にでも迷ったのかな?)
その姿に安心していると声を掛けてきた女の子が、突然自分に向けていた視線をマンションに向けた。
「……お兄さん? このマンションに誰か知り合いでも居るんですか?」
_ガシ_
次の瞬間、朧は、自分でも解らない内に、目の前の女の子の腕を力強く掴んでいた。
「なにするんですか! 離してください! 警察に通報しますよ?」
「ぁぁぁぁすみません」
朧は、正気に返り、女性の手は離す。
「全くひどい方ですね? いきなり女性の腕を掴むなんて。でも、よかったですね? 周りに人が居なくて。通行人が居たら蜩さん? 貴方、警察に逮捕されてましたよ? ふふふっふふ」
手を離して貰えた彼女は、痛がる素振りを見せずこちらに文句を言ってきた。
だけど、どんな理由で、あれ彼女の言っている事は正しい。
もしここに、他の通行人が通り掛かったら、朧は、確実に少女乱暴の現行犯で逮捕されていた。
けれど、いまはそんなことより……
「君は、どうして、僕の事を知っているんだ!」
「さぁ! なんでしょ?」
理由を誤魔化すように、朧の顔に自分の顔を近づける。
そして、不気味に笑い掛ける。
「…本当に知りたいですか?? 知らない方が貴方の為だと思いますよ?」
_ガシ_
朧は、いつの間にか今度は、彼女の胸ぐらを掴んでいた。
「……殺すぞ!」
「……いまの貴方に人殺しなんてできる訳ない。だって、本当に殺すつもりなら殺すぞなんて言わないし、そもそも手も震えませんよ?」
そういうと、彼女は、逆に朧の腕を掴み、そのまま彼の体を地面に叩きつけた。
そして、素早く、朧の首にどこから出したのかサバイバルナイフを押し付けた。
「……じゃあ、これは正当防衛でいいんですよね? 蜩朧さん?」
「!」
_チク_
起き上がった瞬間、自分の首元のあたりをなにかが掠った。
(痛い!)
恐る恐る頬を触ると、触った手が赤く染まる。
「……ちちちちちち血!」
「……怖い? だったらお兄さんに人殺しは無理だよ?」
「!?」
血の付いたサバイバルナイフを上下に振り、返り血を浴びながら、不気味な笑み浮かべ続ける彼女に、朧は恐怖心を覚える。
(……殺される)
それを口にすることすら、いまの朧にはできない。
それぐらい、自分の目の前に居る女の子から早く離れたくて、恐る恐る一歩うしろに下がる。
その最中も首元からドンドン血が流れてくる。
早く、この血を止血しないと自分は、瑞穂の復讐を果たす前に、出血多量で死んでしまう。
朧は、油断してしまった。
まさか、五条龍也に接触する前に、自分の目的、それどころか名前まで知っている人間に、やられるとは思いもしなかった。
それもこんな小さな女の子に。
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