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「零。彼……蜩朧くんは、ターゲットじゃあないだろう?」
突然、マンションの裏手からダークブラックのスーツを着た二人組の男性が突然姿を現した。
「……この人が、いまにも自分に飛び込んできそうだったので? つい、いつもの癖で」
朧に押し付けていたサバイバルナイフを片付けながら、最初に声を掛けてきた男性に向かって、いい訳をしながらも頭を下げる。
「……まったく、お前って奴は、加減ってものを知らないのか?」
「そうだよ! 零くん! この……朧くんは、僕の大事なお友達なんだから」
そして、自分の目の前にいる女の子の事を「零」とくん付けで呼んだ。
「それはすみませんでした。以後、気を付けます」
彼女の方も「零」と呼ばれる事が当たり前なのか、普通に返事を返している。
「えっ? 男?」
首元も止血していた朧は、目の前に現れた二人組の男性より、彼らが、自分を襲った女の子の事を「零=男性」扱いしていたのでそちらの方に驚く。
当たり前だ。誰がどう見ても、男の子には見えない。
「大丈夫朧くん? すぐ止血するからね?」
「……野口さん? ですよね?」
朧は、自分のほうに近づいてきた銀縁眼鏡を掛けた男性と、高校生だった頃(2年前)バイトをしていた便利屋「ハチミツレモン」で、お世話になった先輩、有栖慶さんに、紹介して貰った同じ便利屋仲間の肩まで伸ばした漆黒の髪を後ろで束ねていた男性(野口一)さんといま目の前にいる男性が瓜二つに見えた。
「……本当、僕のこともそうだけど、人のことを信じようとしない所は、2年前と変わらないねぇ?」
「……」
2年前の単語を訊いて、朧は、自分の目の前に居る人物の正体を確信した。
この言葉の本当の意味を知っているのは、亡くなった恋人の瑞穂を除いて、3人しか居ない。
あの頃の俺は、瑞穂以外、信じる事ができなかった。
けれど、残りの3人はどんどん自分の懐に入り込んできた。
自分が、嫌がっても入ってきた。
でも、いま朧の前にいる野口は、朧が知っている便利屋の姿ではない。
「一! 朧くん、固まってるぞ!」
いつの間にか、もう一人の男も自分達の所にやってきていた。
「ごめんごめん。2年ぶりの再会だったからつい!」
「はぁ?……どうでもいいけど、お前? 朧くんを殺すか?」
朧の首元にガーゼを押し付けながら、相棒兼親友に向かって、彼のことを「殺す気なのか?」と強い口調で問いかける。
「ジョークに決まってるだろう! 本当! 零と言い、冗談が通じないんだから!」
斗真から救急箱を奪い取ると朧に向かって、「すぐに止血するから」と笑顔で伝える。
すると、そんな野口と村瀬に背後から、
『……本当に、治療する必要あるの?」
「……あるにきま……って! ゼロ! 今すぐ! 朧くんから離れろ!」
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