encounter 出会い 

7/8
前へ
/15ページ
次へ
「朧くん。ごめんね」 「いえ、話はもう終わったんですか?」  気持ちを察しされないように、話題を変えてみる。 「……朧くん。僕は、正直言うと、こういう形で君とは会いたくはなかった。これからも便利屋野口一として君と向かい合っていたかった」 「……朧さん」  そこに居たのは、2年前、有栖慶さんに紹介して貰った「便利屋ハチミツ」で働く、野口一さんそのものだった。 「……きみが、復讐なんてものに目覚めなければ……きみが、あの日のままの恋人想いの心優しいきみのままで居てくれたら……あいつが……」  続きの言葉を紡ごうとした瞬間…… 「……野口先輩。おまたせしました!」 「!?」  野口のそんな声を遮るように、二人の元に着替えを終えた一夜零が、駆け寄ってきた。 「零くん! そんなに急がなくても大丈夫だよ?」 「もう! 野口先輩! 平気ですって……あぁ!」  もう少しで、野口の元に辿りつくまさにその瞬間、なにかにつまずいたのか前に倒れれる。 「僕に、捕まって!」  朧がこけそうになった零の腕を掴んだ。 「ありがとうございます。蜩さんって、優しい人方なんですね?」 「……」 「あの? 僕の顔になにか?」  零が、不思議そうに首を傾げている。 「腕は、大丈夫ですか?」 「はい。自分こう見えて、体だけは丈夫なので」 「零くん。元気なのはいいけど、ちゃんと前見ないと危ないよ」  朧に対してお礼を言っている零の頭を野口が軽く叩く。 「野口先輩すみませんでした」 「うん。これからは、気を付けてね?」 「すみません。蜩さんもありがとうございました」  二人と同じダークブラックのスーツに、身を包んだ零が、朧に深々く頭を下げる。  そこには、さっきまでの殺気に満った雰囲気は、まるで感じない。  むしろ、純粋で他人を疑う事を知らない、復讐をしようとしている自分とは、まるっきり正反対。 (じゃあ、ここに居るのが本当の彼? じゃあ…本当に彼は二重人格?) 『……ゼロには、自我は存在しない。あるのは、零への想いだけ! あいつは零を護る為だけに生まれた存在』 「!?」  朧の耳元に村瀬が、小さな声で、零の秘密を囁いた。  その内容は、いま、まさに、朧が考えたいた事を根本から打ち砕いた。 「……おい! 零。お礼もいいけど、早く朧くんに自分の名前、名乗れ!」  うしろから、村瀬斗真が零の背中を思いっきり叩く。 「村瀬先輩! いきなり何するんですか? 痛いじゃあないですか!」 「誰のせいでこうなったと思ってんだ!」 「先輩。それは……しょうがないじゃあないですか! あっすみません! 初めまして、一夜零と申します。蜩さんこれからよろしくお願いします」 (これから? そう言えば…)  野口と村瀬が最初に現れた時、自分の事をターゲットだと言っていた。 「…零くん。あとは、任せて大丈夫かな?」 「はい! 大丈夫です。ここから先は、元々、僕の仕事ですから」  零は、野口の前に、しゃがみ込み、左手を差し出す。 「じゃあ、お願いしてもいいかな?」  野口も否定すること無く、その手を右手で握り返す。 「はい。任せて下さい。あぁ、でも、村瀬先輩はいて下さい」  村瀬の顔を満面の笑みで微笑む。 「……零! お前に、言われなくてもそのつもりだ。一、お前は、先に車に戻ってろ!」 「……斗真。零くん。じゃあ、悪いけど僕は、先に車に戻ってるね?」 「あぁ!」  二人に向かって手を振り、そのままマンションの陰に消えて行った。 ★ ☆ ★
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加