第1章

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 離れて欲しいと訴えたのに、紅耀は反対にファイの腰にその猛りをぐりぐりと押し当ててくる。ファイは十七歳になるが色事に疎い。女性に触れたことがないばかりか、未だ自らのものを弄るのにも抵抗を覚えるほどに初心だった。  紅耀の体つきに比例した立派なものを押し当てられ、かっと火照った身体を縮こまらせる。激しく打つ胸を押さえながら、ファイは髪色と同じ黒い毛に覆われた三角の耳をぴくぴくと震わせた。 「今晩……どなたかお呼びになりますか?」  どなたか、というのは紅耀の色欲を満たしてくれる相手のことだ。大っぴらには出来ないが、王宮には夜伽をする者たちが住んでいた。誰彼となく手をつけられては収集がつかないと数代前の王が講じた策だと聞く。  踊り子と呼ばれる女性たちが表向きの仕事のほか、王族の褥に侍ることがあると王宮に住まう者は誰でも知っている。庭先で偶に見かける踊り子たちは輝くように美しく、小鳥のよう軽やかな声で話した。 「いや、いい。おまえにしておく。丹精を尽くしてくれるか?」 「紅耀さまっ」  すり、といま一度腰のものを擦り合わされ、それ以上染めようのないほどにファイは頬を紅く色づかせる。  最近頻繁に紅耀は下世話な話が得意でないファイをからかうようになった。冗談だと分かっていても交わせないファイを面白がっているのだと知っているが、ファイはどうしても狼狽えてしまう。  国で一番魅惑的だとも言われている男に甘く囁かれ続ければ、あり得ないことだと分かっていても勘違いしそうになるのだ。  ――男のわたしがお相手になるはずもないのに。  長い指でファイの顎を撫でる紅耀の腕からするりと抜け出す。猫の一族らしい身のこなしで紅耀に向き直ると、はだけたままのガウンの前を閉めた。そのガウンを押し上げる大きな存在から目を反らし、「お茶が冷めます」ととげとげした声で返す。 「つれないやつだ。淋しいときはいつでも閨に来るといい」  ファイの小さな身体なら十分寝台に入れると紅耀は笑い、螺鈿細工の美しい卓についた。寝起きの悪い紅耀がすっきりとした顔で笑う。このファイとのおかしなやり取りで、白王との顔合わせに緊張していた心が解けたのなら良かった。  ファイはその緋牡丹色に染まった頬に心の乱れを残しながら、もう一度白香茶を淹れるため水筒を手にした。
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