第2章

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 マグノリア王の息子として生まれたファイが、ダグウッドの王宮来たのは三年前。十四の誕生日を迎えてひと月も経たない頃だった。  深い緑に囲まれた小高い丘の上の小国、マグノリアは猫を祖とする種族が暮らしている。ダグウッド国民の平均的な体つきから比べて、一回り以上小柄な体躯をしていた。耳と尾は様々な毛色があるが、髪と眸は共通して黒い色をしている。  マグノリア国のある丘の上は豊かだったが、そこに至るまでの山道は険しく隔離された土地だ。旅人が迷い込むようなこともない。王宮を中心にして円形に民は暮らしていた。平地に田畑を作り、山や川で摂れるものは皆で分け合う。作物が豊であるため争い事は少なく、皆が温厚だった。  雪が溶けて春がもうすぐそこまで来ているという頃、ファイは六つ上の兄、ディーと国内の見回りに出かけた。国の見回りといってもダグウッドとは比べ物にならぬほど狭い土地だ。馬を駆けさせれば一日で回れる。冬の間に崖崩れが起きていないか、獣に荒らされた場所がないかを見て走った。  そうして馬を走らせるうちに丘の端、切り立った崖にたどり着いた。冬の重たい空が広がっているが、雪解け水の香りに交じって春の香を確かに感じる。吹き上げる風がファイの肩まで伸びた髪を揺らした。 「丘から降りたずっと先に、様々な種族が暮らしている」  ディーは遠くを見やりながら言う。すでに父王と共に国民のため働いていた兄は、ファイたちとは違う祖を持つ種族が周辺に国を作って暮らしていること。それぞれが同じ種族同士でまとまって暮らしつつも国交を持ち、他国の良いところを取り入れているのだと教えてくれた。
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