君は一番にはならない

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   私たちは汗だくになりながらラーメンを食べ終えた。人気店なのか、行列ができ始めたので急かされるように店を出る。私は小さくため息をついた。 「他にいいイタリアンあるなら、リベンジする? 来週辺り」  もう気にしていない素振りをしていたつもりだったが、三好くんは気を使うようにそう言った。  私は少し考える振りをして、いつものように答える。 「あ……来週は、ちょっと忙しいんだ。また、今度」  そう、と返事をすると三好くんは話題を変え、話は部長と課長の愚痴になった。  会社まで、歩いて五分。あとたったの五分だけ。  行く、と言えばよかったのに。  ……私は三好くんが怖かった。  *  東京のビジネスが集中するこの街。ここらの飲食店は、平均何年もつのだろうか。  会社のビルのちょうど向かい。ここの店舗は社内でも有名だ。入社した頃は和風ダイニングバー。少ししたら水炊き専門店になり、今は串カツ居酒屋。どれも一年と待たずに閉店した。それには理由があるような気がした。  会社から近かったこともあり、そのどれもが私の行きつけだったのだ。  私は何度目かのため息をつきながら、一人でランチ用の店を新規開拓していた。罪悪感が芽生えるので会社の向かいにはもう行けない。だけれど、どこに行ってもお気に入りになった途端にその店は閉店してしまう。  少し足を伸ばし、会社から徒歩十分圏内で探した。あまり入ったことのない小さな路地を曲がる。  そこにその店はあった。  
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