君は一番にはならない

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   そこは個人経営らしい、小さな喫茶店だった。  外観は古き良き煉瓦造り。スタンド看板には昭和を感じさせる、懐かしいフォントで店名が書かれていた。小さな出窓から覗くと、古びた木製のカウンターと並ぶティーカップが見える。  そっとドアを開ける。コロコロと鈴が鳴り、店内から涼やかなクラシックの音楽が流れてきた。  店の中は暖かみのある電球色で統一されており、カウンターの他にも、ひとつひとつデザインが異なる机と椅子が設けられている。  私はここを好きになる。  そう思った。 「いらっしゃい」  口髭を生やした、白髪混じりのおじいさんがカウンターの奥から出迎えた。  古風な丸眼鏡に、黒いベスト。きっちりと畏まった服装だが、シャツの袖をラフに捲るところに愛嬌を感じた。 「マスター、コーヒーください」  三つのテーブル席の一つに男女が座っており、気さくに声を掛けた。マスターと呼ばれたおじいさんは慣れた様子で返事をする。 「はいよ。……どうぞお好きなところにお掛けくださいな」  あとの言葉は私に向けられていた。  店内は空いている。こういうときはテーブル席に着きたくなる私だが、なんとなくカウンターへ足が向いた。  
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