君は一番にはならない

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  「……また?」  笑いを噛み殺しながら発せられた言葉に、私は何も返すことができなかった。  私たちは、会社から五分程歩いたところにあるイタリアンカフェの前に立っていた。  隠れ家的なその店は、数ヶ月前に私が見つけた店だった。おいしいジェノベーゼが病みつきになり通い詰めるようになったのだ。店内はウッド調でまとめられており、手作りの蝋燭が各席に添えられている、いい雰囲気の店だった。  ……そのはずだった。しかし店内を覗くと、ランチタイムの書き入れ時だというのに人の気配が全く無い。ステンドグラスが嵌められたお洒落なドアには、一枚のチラシが貼ってあった。 『閉店のお知らせ』  私はそれを見て、愕然とした。 「……ごめん。来る前に調べておけばよかった」 「いいよ、いいよ。そこのラーメン屋入ろうぜ」  横で笑いを押し殺している三好くんは、いつもの即決力で道向かいの店を指差す。  ――晴男、雨女とか言うけれど、私は信じたことがない。  一人の人間が天気を操作するなんて、そんな大それたことをできるはずがない。自意識過剰過ぎる。迷信だと思うのだ。  だけれど、私のお気に入りの店はすぐに潰れる。  それを迷信とは思えなかった。 「いいじゃん。ラーメンならすぐ食べられるから、二時に会社に戻れるよ」  ……別に、うちの会社ってルーズだから、ちょっと昼休みが遅れたって誰も気にしないじゃない。  そう思ったが黙っていた。気持ちが沈んでしまい、口を開くことができなかった。  注文したラーメンがあっという間にやってくる。色気も何も無い、だけれど濃厚な豚骨スープの匂いが鼻腔をくすぐった。これは当たりだ。 「……おいしい」 「ほら、掘り出し物に会えてラッキーだろ。都心は店の入れ替わりが激しいからしょうがないって」  これが営業で鍛えた話術だろうか。三好くんのフォローは完璧だ。  ……だけど、違う。  違うの。  どうしていつもこうなってしまうんだろう。  こんなとき、いつも言いようのない不安がよぎる。  
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