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くぅ~~~ん。
「ナポツー、何時ものトリマーのおばちゃんが応援しに来ないからふて腐れてるの?
しょうがないでしょ?おばちゃんはおばちゃんで忙しいの。
だって、他の客のわんこのトリーミングもしなきゃならないし。
あのトリーミング店は、あんただけじゃないものなのよ。」
パートナーは、私の連覇がかかっているこの大会を目標に頑張ってきたのに、全く元気の無い私に話し掛けた。
「ほら!次が出番よ!!早く立って!!」
くぅ~~~ん。
私は仕方無く、ゆっくりと腰を上げた。
「エントリーナンバー55番、大塚さんとナポツーのコンビ。」
・・・はっ!!
私はアジリティのコースを上目使いに見たとたん柵の側にふと、おばちゃんの気配を感じた。
「ゴー!!」
パートナーは私に号令をかけた。
私は夢中で、ハードルを飛び越えた。
私は夢中で、平均台を渡った。
私は夢中で、Aフレームを駆け上がって降りた。
私は夢中で、トンネルを潜った。
私は夢中で、スラロームした。
「今、大塚さんとナポツーのコンビがゴールしました!!
タイムは・・・新記録!!大塚さんとナポツーのコンビがトップに躍り出ました!!」
私は気付けば、表彰台をパートナーと共に立っていた。
「ナポツー!!連覇よ!!連覇!!良かったねーー!!頑張ったねー!!ありがとう!!」
パートナーは、キョトンとする私を大喜びで撫で回した。
表彰が終わった後、柵に1個の風船が結んであったのを見付けた。
「あったあった!割れちゃったらどうしようと思った。」
パートナーは、柵から風船の紐をほどいて、私に見せた。
よく見ると、風船にはトリマーのおばちゃんの顔がマジックで書いてあった。
「これねえ、トリーミングショップのおばちゃんが「持っていって!」って渡してくれたの。
態々、おばちゃんが息で膨らませてね。
あんたの応援に行けない代わりに、ってね。」
おばちゃんの顔の風船の後ろには、ナポツーへのメッセージをマジックで書いてあった。
「ナポツーちゃんへ。
ワタシは他のわんちゃんへの応援しに行くために、ここへは来れません。
トリーミングしてきたわんちゃんが、災害救助犬の選考会に行く応援です。
この風船は、ワタシのカカシです。
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