胃痛持ちな僕と偏頭痛持ちの君

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物凄い速さで駆け抜けた彼を視線で追えば、先程まで俺の隣で座っていた若い女性が青い顔をして口元を押さえている。彼はその女性に「ゆっくり息をしてください。吐きそうですか?この袋使ってください」と、ポケットからビニールの袋を取り出した。 その素早い動きに思わず拍手をしたくなったが、事務員が動きを止めている俺を不審そうに見ていたので慌てて会計を済ました。 出口に向かう道すがらふとあの看護師を見ると、女性を支えながら別室に行く途中だった。 ポケットに付けていてる名札には「久慈」と苗字だけ書かれていて、俺は頭の中でその名前を反芻する。 それから帰路について、家の近くのコンビニで大好きな中華丼を買って帰った。 コンビニの店員は俺の目を見ないまま、面倒くさそうに商品をビニール袋に詰めて俺に手渡す。比較する訳ではないが、今日会った看護師とは仕事に対する態度が大違いだななんて心の中だけで思ってしまう。 自宅であるマンションに入り、玄関前で丁度キリキリと鳩尾あたりに鋭い痛みが走る。家に入ってから直ぐに今日処方された鎮痛剤と胃薬を慌てて流し込んで、着替えもしないままベットに飛び込んだ。 真っ暗な部屋は外の街灯や、小さな飲み屋の灯りが射し込んでいるせいでぼんやりと明るい。ワンルームの部屋には小さな冷蔵庫と、ベッドと、仕事の書類やらが入るラックが置いてあるだけ。まさに男の一人暮らしと言った部屋だ。     
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