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「折山君、営業終わりで悪いんだけど、今度使う企画書完成させておいてくれる?」
「え、えぇ。何時までですか?」
「いつまでって、普通に考えて今日頼んでるんだから明日まででしょ」
当然の様に数枚のとてつもなく薄いプリントを俺のデスクに置いた課長は、既に終わっている帰り支度の格好で呆れたように笑った。
時計をちらりと見ると時間は午後七時。退社の定時はとっくに過ぎている。しかしながらこの会社には定時退社という言葉も、仕事を断るという言葉も存在しないブラック企業だ。
「じゃあ頼んだよ。お疲れ様」
間延びした声に胃と頭が痛む。
くたばれクソ野郎。
目の前にはとてもではないが、今日中には終わらないであろう仕事の山。病院でもらった薬を温くなった水で流し込み、怒りやら忙しさを叩きつけるように荒い音を立てながらパソコンのキーボードを打ち続ける。
途中で死人のような顔をした同僚が、小さい声で「お疲れ様でした」と呟いてそそくさと帰っていくのを視界の端で見送った。気づいた時にはオフィスには誰も居らず、窓の外はキラキラと街中の街灯が煌めいている。
気分転換にトイレに行って鏡を見ると、目の下に物凄い隈を拵えた顔色の悪い男が映っていて、その男が苦笑いを浮かべる。
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