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「じゃあ。行ってくるから。ご飯炊いといてよ」
髪を結い上げ、化粧をし、派手な服に身を包んだ母が、玄関で靴を履きながらぶっきらぼうに言った。
「はい。おばあちゃんち、行ってもいい?」
「やることやってからなら、好きにしていいよ。じゃ。行ってくるから」
母はこちらを振り向くこと無く、鞄を掴んで出ていった。
こんなのは、いつもの光景だ。
夜の7時。
父の居ない私の家は、母が働きながら私を育ててくれている。
幼いながらにそれが大変なことであると理解していた私は、母を見送り、家の片付けを始めた。
母が慌ただしく支度した部屋は、メイク道具が化粧台から転げ落ちていたりする。
これを片付けておかないと、翌日帰ってきたときに
「無くなった。あんたが無くした」と言われかねないのだ。
私はいつも通り、黙々と部屋を片付けた。
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