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 島に女を置いてきた。原住民はひとりもいない。いるのは野生動物ばかり。美しい顔を歪ませ、既に泳いでは負えない距離にいる船へ何事か叫んでいる。次に船が来るのは、女が静かになった時。それもわかっているのだろう。  波に洗われる船尾に立ち、女の姿を目に焼き付ける。もっともくっきりとしたちっぽけな像を頭に残すために、長い髪の振り乱れる様も甲高い声も逃さない。猛獣に引き裂かれるもよし、枯れて飢え死にするもよし、発狂するもよし。誰に看取られることもない孤独な最期が約束されている。華やかな暮らしに間違っても助け戻されないように私有地とまでしたのだ。いささか豪勢な墓である気がしないでもない。だが女にとっては広ささえ絶望となるだろう。それで満足だった。  高慢ちきな女に対する復讐。悪女の行いの清算の時。ありふれていて耐え難い仕打ちの数々が浮かんでは消える。甲高い悲鳴に感じる愉悦が、不幸な男を殺していく。  しかし復讐を果たした男の耳には奇妙なものが聞こえてくる。甲高い悲鳴はまるで哀願か、別れを惜しむ切ない嘆きに聞こえてくる。あるいは聞き覚えのある狂ったような嘲笑のような響きに思える。嘲笑は散々されたから、まだ許していない自分の幻聴かもしれないとも考えた。しかし大口を開けた女が笑っているように見える。恐怖しているようにも見える。絶望しているようにも見える。それ以上に間抜けに見える。  なるほど合点がいったのは、背にしていた船首から怪物の口の中に?み込まれた後だった。結局最後まで踊らされ悩まされた。あの女め。
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