泡沫

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 小さい頃から、私は将来の夢だとか、目標だとか、そういったモノを発表するのが苦手だった。気恥ずかしかった訳じゃ無い。……いや、少しは気恥ずかしさはあったけれど、そんな事は些細な事だった。  単純に、何も無かったのだ。  私にはやりたい夢も、追い掛けたい目標も、何も無かった。  当時の私は『何も無い』と教師に言ったけれど、それでも『何かあるでしょう』とか『何か書きなさい』と無責任な言葉を返されて、結局は心にも思っていない事を書いていた。  私は幼心ながら、それが酷く苦痛で、何故か虚しくて、成長してもその虚しさがずっと心の何処かに居座っていた。  今もそうだ。ずっと、片時も消えてくれなかった。誰かと遊んで一時は楽しいとは思っても、ふと我に帰ると直ぐに虚しさが心を支配した。  だから何かに没頭し続けた。空想の世界に逃げた。逃げ続けた。  あれは中学生の時だった。いつの頃だったかは定かでは無いけれど、私はそれまではきっと、幸せな家庭で過ごしていたのだと思う。けれど、いつしか家に帰っても、幸せな、温かな家庭が待っているということは無くなっていた。  決して罵声が飛び交ったりしていた訳じゃないけど、ただ、ただ、静かだった。両親が目を合わせることなく食事をして、会話を交わすこともなく一日が終わる。唯一静かじゃない音があるとすれば、母親が食事の入った皿を父親の席に置く時の音位だ。  それでも父親は何も言わなかった。  母親も、父親が帰ってくると舌打ちをしたり、小さな声で恨み辛みを口にはするけど、本人に対しては特に何も言わなかった。……少なくとも、私が覚えている限りで直接言った所は見たことがない。  今思えば、両親なりの気遣いだったのだろう。子供の前で喧嘩することを避けていたのだと思う。現に、一度だけ文句を口にしかけ、噤んだ所を見たことがある。けど、私が後にも先にもそういった所を目にしたのはそれっきりだった。  だけど、私はそれが苦痛だった。いっその事、喧嘩でもしてくれた方がマシだった。その張り詰めた空気が恐ろしかった。少しでも事が動けば何もかもが崩れていく事を恐れていた。  だから、何も言えなかった。口出し出来なかった。私の気持ちをぶちまけてしまえと思った時はあったけど、いざ言おうと決心したとしても、その空気に晒されてしまうと、言葉が出てこなかった。
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