泡沫

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 羨ましかった。下らない事で笑って、笑えて。何の不安も抱いていない様に見えた。きっとそんな事は無いのだとは思うけど――本人達には本人達の悩みがあるのだろうけど、私からすればそれでも眩しく感じたのだ。  それに救われた。同時に、思い知った。  高校も三年生になると進路が決定している人が大多数を占めるが、私は季節が秋になっても、何も決まっていなかった。母親には『大学には行って欲しい』と言われた。  肯定する気にはならなかったが、それ以上に反発する気にもならなかった。多分、私は適当な大学を受けて、適当に過ごすのだろう。  この頃になると、学校に遅くまで残って話をする人は少なくなっていた。皆、進路が決定して、卒業までの間にアルバイトをしてお金を貯めたり、自動車免許を取得するための勉強であったり、各々の将来に向けて活動しているのだ。  私もアルバイトでも出来れば無駄に時間を潰す必要も無いので、助かるのだが、両親はそれを許してくれなかった。進路が決定していないからではなく、私が高校生の内はアルバイトが禁止という両親の方針だった。  そんな事もあって、私は一人で過ごす時間が増えていた。ゆっくりと自転車を漕いで、目的地も無くふらふらしたり、人の少ない河川敷で、ただ緩やかに流れる川を眺めて過ごしたりした。段々と肌寒くなってきたけど、それでも家に帰るよりはマシだった。  今日も、「私はどうなるのだろう」と答えの出ない事を考えていた。そしてまた、「今日こそは両親に文句を言ってやろう」と実を結ばない決意をして、した振りをして帰路に着く。そんな毎日が続くけど、やはり季節が冬に近付くに連れて、日に日に肌を刺すような感覚は強くなっていく。でもやはり真っ直ぐに家に帰ろうとは思えなかった。  そんなある日、見飽きた道を通って、見飽きた河川敷に自転車を止めて、見飽きた情景をぼーっと眺めていた時だった。特に、何を考えていた訳では無かったのに、何故か急に胸が締め付けられた様な感覚がした。  悲しくて苦しくて、泣きたくなった。でも、涙は出て来なかった。それが一層悲しくて――一体私は何なんだ。私は、誰なんだ。そんな問い掛けを自分にした。  寒さで震える体をぎゅっと寄せて、震える手で自分の肩を抱き締めて、じっと堪えていると、気付けば時間が過ぎていた。
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