猫になりたい

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「BGMが欲しい」 「リクエストは?」 「何でもいい。何でもいいけど、何か弾いて」 「何にするかなぁ。何を弾いても分かってくれないからなぁ」 なぜか音楽には昔から疎くて、うまく興味が持てなかった。社会人になれば、関心がなくても困ることもなく、流行りのバンドも、世界的な歌姫も、クラシックミュージックの一つも知らない。 それでも彼は、嫌がりもせず、いつでもギターを抱えてくれる。 彼の一番の恋人も家族も友人も、全部ギターだ。だから、私は猫でいい。 「……終わったよ。これからは、この箱に入れておいて。来たときに整理しておくから」 「サンキュ。普段のレシートも、全部突っ込んでおいていい?」 「いいけど……それって、嫌じゃない?」 生活全部丸裸だ。ストーカーになれる。 「全然。やってくれると助かる」 溜め息をつくように優しく笑いながら、彼はギターを爪弾くのを止めない。 何の曲かは、相変わらずさっぱり覚えられないけれど、彼の音は分かる。柔らかくて、温かい。
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