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「そうだ」
何かを思い出した男は、私と逆側のスツールに置いていた黒い鞄を漁る。ジャケットもTシャツもパンツもシューズも黒。髪も黒。髭も黒。
鼻と唇の間を埋める髭に視線が釘付けになる。私の周囲に、無精髭以外の髭を生やす人は、いなかった。
「これやる」
神社の名が入った白い封筒を開けると、軽やかな音と共に鈴が転がり出てきた。魔除けの鈴。
「猫には鈴だろ」
偶々用があって行った神社で、妙に気になって買ったのだと言う。黒ずくめの男が買うにしては、可愛らしすぎる桃色の花模様。偶々用って、神社にどんな用事?
――シャリン。
音も、可愛らしいのね。ちょっとおしとやかで、華やかで、凛としてる。
鈴を鳴らしたら、来てくれるのかしら。
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