猫になりたい

「先生になると変わるもんですねぇ」
「年寄りになると、朝早くてな」
「何言ってんすか。俺と大して変わらないくせに」

週一日、世話になった人の頼みを断りきれず、音楽教室で講師をしている。本業は、アコースティックのギタリスト。ここ最近は、馴染みのアーティストに呼ばれ、バンドメンバーとして演奏することが多いスタジオミュージシャン。稀に、ツアーにも同行する。

「それとも何すか。カノジョでも囲ってんすか」
「いや……猫がね」
「猫飼ってるんですか？」
「いや、飼ってるわけじゃ……」

譜面に気をとられ、生返事をしているうちに、相手は勝手に納得していた。

「ああ、地域猫ってやつですか。あれって適当に餌とかやっちゃいけないんすよ」
「そうなの？」

うちの猫は、餌をやっても毛並みを逆立てないようになった。あまり食わないが、他に行っている様子もない。

「地域ごとにルールとかあるんすから、確認しないとダメっす」
「気をつけるよ」

軽く笑い飛ばして、事務所を出た。この後、音楽教室でレッスンがある。