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「あ。いた」
時々家に寄りつくようになった猫は、テレビ画面の中に俺を見つける。
「本当にギタリストなのね」
「俺が他のことしてるように見えるか」
「ううん、いつもギター抱いてるもの」
マリアの出番が終わり、CMが始まる。
猫はソファの上で丸くなる。CMに合わせて俺のやった鈴をシャラシャラ転がし、ふんふん鼻歌を鳴らす。透かし彫りの鈴の音は少し低めで、猫に似合う。
「お前、それがビートルズだよ」
「え? この歌? そういえば、聞いたことあるかも」
世界一有名なロックバンドさえ知らない猫は、鼻歌に合わせた俺のギターに欠伸をし、テレビを消す。
「テレビ、もういいのか?」
「うん。ギターの方がいい」
何の曲か知らないけど、と曲名の一つも覚えられない猫は笑いながらまどろんでいく。
呆れこそすれ、腹が立たないのは、それが猫だからだろう。
それでいいさ。よくおやすみ。
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