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いつかの夢の内容を覚えているだろうか。
最初は静謐な空間だった。浮游する空間を寧ろ自分が俯瞰していた。色も無く、形も無い。ただ生温かい夢の海に身を落とすような感覚を空間と共有していた。眼を閉じる度、空間の質感が触覚として知覚できるような僅かな手触りを感じて意識体としての手を伸ばした。
やがて薄ぼんやりと輪郭の色味が頭の中に流れ込んで来た。緑、碧、そして眩い光。光は遠い追憶の彼方から語りかけてくるような声で確かに"おいで"と自分を呼んでいるような気がした。彼は身体を動かした。意識のとめどない混沌の渦の中に自らの意思で代弁者たる精神体を形どった。彼はゆっくりと手を伸ばすーーー。
誰かの意思が語りかけてきているようだった。数多の神経系の中、その光だけは全く無害にそこにあった。光に触れようとした刹那、彼は彼の夢の中に在る誰かの意識の中に改めて召喚された。
清純な風が抜ける森の中に彼は立っていた。否、風は吹いていなかった。まるで吹いているかのような清浄な気の流れを感じただけだった。
彼を導くかのようにあの光と、そしてそれに伴う道が続いている。彼は恐れずに足を踏み出した。
木々は静かに彼を見守り、道はやがて傾斜を帯び、息が上がる頃に木々はお辞儀して景色を開いた。
彼は言葉を呑み込んだ。神々しく輝く陽の光を浴びて燦々と煌めく荘厳な滝がその御姿を現したのだ。まるで現世ではないような幻想的な霧が崖下には立ち込め、まるで滝が全ての罪を請け負って清しているかのような、言葉にならないような凄みがある。
彼は切り立った崖の上に立っていた。いや、もはや崖では無かった。振り返るとそこにはかつての森は無く、大きな、大洋のような川の流れが無限に身を任せているのだ。彼は輝く滝に向き直った。滝から呼ばれているような気がしていたからだ。
"やっと、訪ねてくれましたね"
優しい、包み込むような女性の声が響いた。
"あなたを待っていました。あなたはこれから、数多くの困難に立ち向かう数奇な運命を持った者として、歩んでいかねばなりません"
彼は黙って滝を見据えた。
"その前に、あなたのことをもっと知っておきたかったのです。そう、あなたがどんな人物なのか"
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