序章

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次に夢の海に身を落とした時には、もう全てが消え去っていた。あの女性は彼に幾度かの質問を投げかけたーーーそれは彼にとって取り留めもない質問だった。 "よく空想をして遊ぶ方ですか?" "一度交わした約束をやぶることは、例えそれがどのような理由であっても許されないと思いますか?" "時々眠れなくなってしまうことがありますか?" 最後の質問で彼は彼方遠くの村の井戸に意識を飛ばされた。そこで彼は異形の怪物と成り果て、脳を支配する悪の心で男を一人焼き殺してしまった。 男をに浮かぶ恐怖と苦悶の表情。皺の寄った老人、幼子を守る母親の決死の覚悟。見るに耐えない彼は無我夢中で身体を動かし、転げるように村から出た。 意識が滝へと戻ってきても蒼白な表情をしていたのだろう。頭の中に響く女性の声は今までに輪をかけて彼を温もりで包んだ。 "あなたは優しい人です。そう、豪傑を絵に書いたような人。人を助けることに疑問を持たず、周囲からの信頼を集めることができる。あなたは素晴らしい人です。もしそうでないならば、そうなってくださいね" 彼の呼吸が落ち着いてきた。もう一度しかと滝と向き合った。 "さあそろそろこの夢も醒めるころ。あなたが数奇で過酷な運命に打ち勝てることを祈っていますよ。目覚めなさい" 彼は再び夢の海に落ちる意識のひとつとして、揺蕩う想いのひとつとしてめぐりとひとつになるのだった。
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