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感傷星
休日、朝。彼から星を見に行こうと言われて思わず皿を洗っていた手を止めた。
「急だね?」
「風が語りかけてきたから」
「なにそれ」
微笑しながら皿洗いを再開。
「行く?」
「うん、行く」
何に影響されて天体観測に誘ったのだろうか。
でも、彼は少し変わった人だから突然言い出すのも分かる気がする。失礼?今さらでしょ?
絨毯の上で胡坐をかいて珈琲を口にしている相手の後ろ姿を見てクスクスと笑った。
星の瞬きが肉眼で見てとれるようになった頃、おにぎりとお茶の入った水筒を鞄に入れてそれを片手に家を出た。
電車に乗ってからは時計を確認してないので何分揺られていたか分からない。囁かれて降りた駅は都会にしては高層ビルやマンションが少なくて一軒家が並ぶ住宅地が開けて見えた。
そこから彼の後ろに着いていって歩いて行くと暗がりの中、草むらのカーペットが広がった小さな丘があった。
「へえ、東京にこんな場所あったんだね」
「うん、ぶらり旅したとき見つけた」
「いつの間に旅なんてしてたの?」
「まあ、前の休みに……ね」
「そっか」
(今日の君は……なんだか)
夏独特であろう生ぬるい風が通り過ぎた。木々が微かに揺れる音がする。すぐに止んだけれど。
「空、見て」
言われた通り見上げるとそこには視界いっぱいの星の海。田舎のほうには劣るかもだけど都会でもこんなに瞬く星空を見える場所があるなんて全く知らなかった。
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