感傷星

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すごいね、って声をかけたら彼は目を細めて緩く微笑んだ。大人なんだけど一段越えた大人の姿に見えて妙に緊張する。惚れ直すってこうゆうことを言うのだろうか。 「今日は風があってそんなに暑くないね。寒くもないけど」 「うん。あ、シート持ってきたから座ろ?」 「そうだね」 ちょうど二人が腰を下ろせる大きさのそれに座った。そのあとはどちらからとも話しかけることはせず、ただ満天の星空を眺めていた。本当は話しかけたかったんだけど彼の虚ろで儚げな横顔を見たら何だかできなくなってしまった。 今日の彼はセンチメンタルらしい。笑顔はどこか無理してるし、会話も必要な時だけだ。 でもどうして不安定な感情の時にこうやって連れ出してくれたんだろう。家でゆったりしていた方が幾分良いと思うのに。 今、干渉するようなことは避けた方が良いのかな。それとも干渉したほうがいいかな? どちらの選択をえらんでもきっと彼は優しく対応してくれるんだ。元気付けたいのに結局は私が助けられる形になると思う。 「おにぎり……食べる?」 「うん、頂戴」 良かった、食欲はあるみたい。受け取ったおにぎりを彼は無言で食べ始めた。 「あ、お茶もあるからね」 水筒の蓋をコップにして半分まで注いだ。差し出したら「ありがとう」と一言。 こんな風に気を使うことしか出来ない自分に自己嫌悪。恋人なのに重要な時に役に立てないなんて。 膝を抱え込んで頭を埋める。そして気づかれないように溜め息を一つ溢した。
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