感傷星

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「ねぇ、ここに来て」 「え?」 “ここ”と指している箇所は彼の足の間。 何も言わずそこに腰を下ろすと後ろから細くて筋肉が程よくついた腕に包まれた。 体温が洋服越しから伝わる。フワリと首筋に彼の傷んだ髪の毛が落ちた。それと同時に同じシャンプーの香りが鼻を擽った。初めての行為では無いのに心臓の鼓動は早い。 「どうしたの?」 「…俺の傍に居るだけで良いの」 この人はなんでこんなに優しいのだろう。もっと自己をさらけ出しても良いのに。 「それだけで良い。どうせ“役に立てない”とか考えたでしょ?」 「……うん」 「優し過ぎるよ、そんなこと考える必要ないのに」 「優しいのは君にだけだよ」 「木村さんや小森には優しくしないんだ?」 「それは……っ」 「ははっ。嘘、嘘」 上司と同僚を使うなんてズルい。まったく。 そこで一旦会話は途切れた。 本当に良いのかな、傍に居るだけで。不安は残る、でも本人がそう言ってくれたのだからその言葉を信じることにした。 他愛のない話しを星の海の下で交わす。どれ程の時が経ったのか定かではない。 ふと、彼が空を見上げたから私もつられて空を見上げた。星座、見えてるんだろうけど星が多すぎてどれがどれか分かんないや。天文学者はすぐに分かるんだろうな。 あ、あの星はずば抜けて光を放ってるから星座を探すときの目印になってるかも。 「流れ星はさすがに無理かな?調べとけば良かった……流れ星、みたことある?」 ポツリと呟きが耳に流れたと同時に彼の腕が離れないまま2人して後ろへと倒れ込む。 「俺、流れ星って見たことないなぁ…」 「じゃあ、流星群が見えるときにまたここに来ようか?」 「本当?やったぁ」 次の約束を取り付けて楽しみが増えた。それじゃその時のために星座について少しでも知識をつけておこうかな。それで教えてあげるんだ。 腹部に回っている腕の力が強くなった。 大丈夫、大丈夫。 彼なら今の脳内の引っ掛かりも打破出来る。信じるって決めたし、そして私は傍に居る。ずっと。 彼の手と自分の手を重ね合わせて呪文のように心の内で唱えた。 END
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