はじめに

2/3
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 少々曖昧な記憶を呼び起こすと、おそらく、彼女が書いていたものはホラーだった気がする。何かに追われている? という不安を煽る話だった。私はそれを不覚にもと言ったら失礼にあたるかもしれないが、面白いと思ってしまった。この感覚が現在、ホラーを書くにあたっての原動力になっているのは言うまでもない。    もちろん、その物語は整然と並んでいるものではなく、彼女の手書きだった。暇な授業中の合間を縫って、書き進めている様子を見ていると、私としてもどんな物語になっていくのだろうかと、ワクワクしたものだ。そういうことが続いて、あるとき、私もその物語の一員になりたいと思った。つまり、読み手では飽き足らず、書き手にまわりたいと思ったのだ。  それが私の人生初めての執筆だった。執筆とか偉そうに言っているが、結果から言ってしまえば、物語を破綻させてしまったのだが。隣の女の子からは頭を叩かれ、手に持っていたシャーペンを取り上げられたというなんとも不甲斐ないものだった。    後になって、彼女は私の書いた文章を読んで笑っていたから、ギャグというジャンルにおいては成功していたのかもしれない。  それからは時が流れ、大学に入ってから、貴志祐介という作家に出会った。これが私の二度目の創作意欲を掻き立てるものとなった。  ホラーというジャンルと緻密なプロットを感じさせる展開が三度の飯よりも幸福感を満たしてくれた。なにより、私はプロフィールに書いてあるとおり、臨床心理士の卵なので、心理学の知識が物語のあらゆるところに散りばめられていることに親近感が湧いた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!