温泉へ行こう

1/1
前へ
/77ページ
次へ

温泉へ行こう

【温泉へ行こう】 これはふとした切欠だった。 「ルリちゃん、俺が買い物のときどこに行ってたんだ?」 ルリの毛並みをブラッシングしてランバートが聞いたのだ。 「温泉。気持ちよかった」 「温泉? それで良い匂いがしてたのか?」 「この匂いはお花の匂いだよ。温泉の近くにたくさん咲いてた桃色の花の匂い」 「そっか、ルリちゃんは色々な場所に行くんだね」 「旅が趣味だから。そうそう、ウラウさんとミラさんを温泉に誘ってみたの。でも良い返事が貰えなくって。ランバートさんも温泉って嫌なの?」 小首を傾げるルリにランバートは瞬いた。 「俺は別に・・・。温泉か、暫くゆっくりしてないな」 最近の目まぐるしさを思い出したように呟いたランバートにルリは言った。 「人間もゆっくりしないとダメだよ? 温泉へ行こう」 ルリが緑色の眼差しを輝かせる。 「宿とかはあるの?」 「あるよ。大部屋で相部屋だけどね」 「へえ、いろんな人と泊まるんだね」 「やっぱり嫌?」 ランバートは笑う。 「ひとりは嫌かな。誰か誘おう。もう少し詳しい説明を聞かせてくれる?」 その温泉宿は「宵闇亭」。 魔法障壁に覆われた格安の宿だという。 ルリが送ることができるのは魔法障壁の手前の林道までで、そこからは徒歩となる。 他に馬車を使っても宵闇亭に辿り着ける。 朝の8時に出発すれば着くのは昼頃だとルリは言った。 大体のことを聞いたランバートは知り合いや仲間にそれとなく声をかけることにした。 宿の予約もランバートでいれることにし、数日のうちに一泊二日の旅行は決まった。 「思いの外集まってくれたね」 ランバートの肩でルリが驚いている。 ──朝8時、待ち合わせの場所に馬車が来る。馬車に乗り込む者、ルリに送迎される者が分かれて温泉旅行は始まった。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加