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温泉へ行こう
【温泉へ行こう】
これはふとした切欠だった。
「ルリちゃん、俺が買い物のときどこに行ってたんだ?」
ルリの毛並みをブラッシングしてランバートが聞いたのだ。
「温泉。気持ちよかった」
「温泉? それで良い匂いがしてたのか?」
「この匂いはお花の匂いだよ。温泉の近くにたくさん咲いてた桃色の花の匂い」
「そっか、ルリちゃんは色々な場所に行くんだね」
「旅が趣味だから。そうそう、ウラウさんとミラさんを温泉に誘ってみたの。でも良い返事が貰えなくって。ランバートさんも温泉って嫌なの?」
小首を傾げるルリにランバートは瞬いた。
「俺は別に・・・。温泉か、暫くゆっくりしてないな」
最近の目まぐるしさを思い出したように呟いたランバートにルリは言った。
「人間もゆっくりしないとダメだよ? 温泉へ行こう」
ルリが緑色の眼差しを輝かせる。
「宿とかはあるの?」
「あるよ。大部屋で相部屋だけどね」
「へえ、いろんな人と泊まるんだね」
「やっぱり嫌?」
ランバートは笑う。
「ひとりは嫌かな。誰か誘おう。もう少し詳しい説明を聞かせてくれる?」
その温泉宿は「宵闇亭」。
魔法障壁に覆われた格安の宿だという。
ルリが送ることができるのは魔法障壁の手前の林道までで、そこからは徒歩となる。
他に馬車を使っても宵闇亭に辿り着ける。
朝の8時に出発すれば着くのは昼頃だとルリは言った。
大体のことを聞いたランバートは知り合いや仲間にそれとなく声をかけることにした。
宿の予約もランバートでいれることにし、数日のうちに一泊二日の旅行は決まった。
「思いの外集まってくれたね」
ランバートの肩でルリが驚いている。
──朝8時、待ち合わせの場所に馬車が来る。馬車に乗り込む者、ルリに送迎される者が分かれて温泉旅行は始まった。
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