1人が本棚に入れています
本棚に追加
その後、私はバーへ赴いた。
辛い時、悲しい時に訪れるのだ。
高校の時からの親友が経営している。
「いらっしゃいま…って由依か。どうしたの、あんたがまた来るなんて何かあったのね?」
少しふくよかなマダムが私を出迎えた。
彼女は、高校の時、同じ部活だった。
最も、高校生の頃は彼女は男性だったのだが…。
「ちょっといろいろ思い出してね。」
「分かったわ、当ててあげるわ。また甥っ子にババアって言われたんでしょう?」
「ちがーう!…いえ、違わない。確かにそれも悲しいわ…。」
「冗談よ。」
そう言って彼女はくすくす笑った。
「ほら、言ってごらんなさい。」
私は彼女に、先ほどの美佳とのやりとり、そして彼のことを話した。
「なるほど…。普通のカップルだったらやり直しなさいと言えるけど、あんたはそうじゃないものね、由依…。」
「ひらりん…。」
「だから言ったのよ、いくら占っても由依とあんたの元カレは相性が良かった。彼はあんたのことを愛していたのよ。それに、あんたの仕事で出会ったんでしょう、手放すべきじゃなかったのよ。」
「私も、そう、思う…。でもお母さんは許さないわ!」
ママはそうねと言って、私の頭を軽く撫でた。
「今度会った時は、もう少し自分の気持ちに素直になりなさいよ。あんたたちの未来には、避けられない不幸があるでしょう、でもあんたの気持ちはずっと前から決まってるんでしょう?」
「うん…。」
私は涙を拭うと、笑った。
「よし、いいわ!今日はワタシの奢りよ!」
「いいの、ひらりん!じゃあバーボンロックで!」
「やっぱり由依はその方が似合うわよ。それより、ここではママとお呼び!」
「はぁい、ママ」
ママの本名は平本幸也。大学の時、いろいろあって女性として生きている。だから彼をよく知る人たちは、幸子と呼んでいる。
幸子とお酒を酌み交わし、思い出話に花を咲かせていた、ちょうどその頃だった。
最初のコメントを投稿しよう!