長靴をはいた猫耳勇者マオ、異世界に行く

　十月三十一日。
　日本のとある町の片隅で、不思議なことが起きていた。

　・・・

「ここが、異世界ですかにゃ。不思議な所なのですにゃ……」

　辺りを見渡しながら、呟く少女。黒い髪は肩のあたりで切り揃えられており、目は大きく可愛らしい顔立ちである。
　その格好というと、白いシャツを着て水色のズボンを履き、腰のベルトからはお洒落な装飾の短い剣をぶら下げていた。さらに足には、猫の足を模したような形の、白い長靴を履いている。
　そんな彼女の名はマオ。人呼んで、長靴を履いた猫耳勇者マオである。その呼び名の通り、頭には可愛らしい猫の耳が生えていた。さらに、お尻からは長い尻尾も生えている。

「そうじゃ、ここは異世界じゃ。わしのそばを離れるなよ。ここには、おかしい奴がいっぱいいるのじゃ」

　言いながら、マオの手を握っているのは……まるで道化師のような扮装の男である。顔は白く塗られているが、唇は真っ赤だ。また目の周りは、十字型に黒く塗られている。
　しかも着ている服もダブダブであり、パッと見にはふざけた印象しか受けないだろう。
　だが、勘違いしてはいけない。彼はかつて妖魔ジョーカーとして、あちこちの町や村で悪さを繰り返していたのだが……マオと出会い説得され、その熱意に負けて悪事をやめた。
　以来、彼はピエロ魔人と名乗り、マオの友となったのである。
　そして今日は……ピエロ魔人の案内で、二人して異世界へ旅行に来たのだ。マオは、違う世界に来るのは初めてである。彼女は緊張した面持ちで、異世界を歩いて行った。
　ふと下を見ると、地面は硬い物で舗装されており、とても歩きやすい。だが、どこか冷たい感触が伝わってくる。マオは不思議なものを感じながら、ピエロ魔人と共に歩いて行った。

「にゃにゃ！？　魔人さん、あれを見てくださいにゃ！」

　不意に興奮した面持ちで、前方を指差すマオ。ピエロ魔人がそちらを見ると、巨大な鉄の塊が、轟音とともに走っていた。牛よりも大きく、馬よりも速いスピードだ。こんなものは見たことがない……マオは目を輝かせ、鉄塊の動く姿を見つめていた。

「魔人さん、あれは何ですかにゃ？」

「おう、あれか。あれはな、クルマというものじゃ」

「く、くるまですにゃ？」

「そうじゃ。あれはな、機械で動く仕掛けなんじゃ。簡単に言うとな、油で動くんじゃよ」

「油ですかにゃ！？　凄い仕掛けですにゃ！」