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「と、とりあえずやってみるか。っていうか、やらなきゃ、殺されるな……」
手のひらをかかげたイェンの手が、イヴンに強く握りしめられる。
何か言いたげに、目顔で首を振るイヴンに、イェンは背後に立つエーファを軽く振り返り、だってしょうがないだろう、と肩をすくめる。
イヴンの傷口に手をかざし、その手に意識を集中させるようにまぶたを閉じる。イェンの眉間に深いしわが寄った。徐々に手のひらから淡い光が発光する。
「貴様っ! やればできるではないか! 出し惜しみをするな」
エーファは目を輝かせた。が、イェンとイヴンを見守ること数分。次第にその顔に不審なものが滲んでいく。
「イヴンの様態が悪くなっていくように見えるのは、私の気のせいか?」
訝しげに問うエーファの口調は冷ややかだった。先ほどまで、そこそこ元気だったイヴンの様子があきらかにおかしいのだ。ひたいに汗を浮かべ苦しそうに息を吐いている。
「あ!」
イェンは素っ頓狂な声を上げやべえ、と頭をかく。
「俺ってば、反対にこいつの生気吸いとっちゃってたよ」
術、間違えたみたい、と妙に血色のよい顔でイェンは、はははと笑う。
エーファは握りしめたこぶしを小刻みに震わせた。
「何か旅の疲れが一気にとれたって感じ?」
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