1 王子様とおちこばれ魔道士

2/15
531人が本棚に入れています
本棚に追加
/481ページ
 ワルサラ国という、いつ他国から侵略されてもおかしくない小さな国がある。  どれだけ小さいかは、高い丘から見下ろせば、国の端から端までが見渡せるという小ささだ。  なのに、今まで侵略という憂き目を見なかったのは、ワルサラ国が肥沃な土地でもなく、特産物があるわけでもない。どうしても手に入れたいと思うものなど何ひとつない、という国だから。  それはさておき。  その国の外れにある、一軒の食事処。  店がまえはお世辞にもきれいとは言いがたいが、料理は最高と町では評判。おまけに、格安料金の宿泊部屋もあって、とりあえずその店は繁盛していた。  店の名は『焼き肉亭エルデ』特性秘伝のタレが自慢の焼き肉店だ。  彼女と二人で食事を楽しむという雰囲気の店ではないので、店内にいる客もむさ苦しい野郎が多い。  そんな仕事帰りの男たちの汗と煙草の煙と、肉を焼く匂いで充満した店の片隅に、あまりこの場にはそぐわない二人の男性客がいた。  ひとりはまだあどけなさを残した顔立ちの少年。  短髪の亜麻色の髪につるりとした白い肌、ほんのり赤く染まる頬。肉の焼き加減に注意をそそぐ理知的な茶色の瞳。  少年の名前はイヴン。  小柄な身体にシャツとベストとズボン、一般的な庶民の格好が違和感なく馴染んでいるが、彼はこのワルサラ国、王位継承二十六番目の王子であった。
/481ページ

最初のコメントを投稿しよう!