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「ひとつ助言。魔術は詠唱によって生じるものじゃない。唱える者の揺るぎない意志の強さと願いが、術を具現化する。精霊召喚術も同じだろ?」
唱える者の揺るぎない意志の強さと願い。
リプリーは口の中で繰り返し、さらに表情を引き締め姿勢を正した。
暗がりを照らすのは、わずかに木々の合間から射し込む青い月明かりと、赤く揺れるたき火の炎。
まるで幻想的な空間に立つリプリーは、どこか神秘的で独特な雰囲気をまとっていた。
ゆらりと両手をかかげる。
夜の肌寒さはむしろ意識を明瞭とさせる。
研ぎ澄まされていく感覚。
『我が名の元に契約を結びし風の精霊よ
我が喚び声に今すぐ答えなさい』
響き渡る凛とした声。直後、緩やかな風がリプリーの足下から渦巻き状に流れ、枯れ葉が旋回して虚空へと舞い上がる。
『束縛のない自由な羽で空と大地を……』
口調の整った力強い詠唱。しかし、詠唱は途中で中断された。
リプリーのまなじりがすっと細められた。
迷いのない決意と確固とした自信にあふれる表情。
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