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その時、リプリーが鍋を手にやってきた。
中身は何やら怪しげな葉っぱと、どろりとした液体が煮え立ち泡を立てている。
「モエモエ草よ。万能薬なの。イヴン、ちょっと上着を脱いで腕を出して」
言われるまま上着を脱いだイヴンの胸元に、ワルサラ国の王族である証の紋章が刻まれたペンダントが揺れた。
慌てて隠そうとするが、リプリーはとくに気にとめる様子もない。
それもそうであろう。
一般の者が王族の紋章を見たところでそれが何を意味するものか、わかるはずもない。
とろとろに煮えた草を鍋から取り出し、それをよく冷ましてから汁をしぼる。
そのモエモエ草をイヴンの傷口にのせ、手際よく包帯で巻いた。さらに、モエモエ草の煮汁をカップにうつしてイヴンに差し出す。
モエモエ草の煮汁は解熱効果もあるのだ。
イヴンは濃い緑色のどろりとした液体をしばし見つめ、一気に飲みほした。
よほど苦かったのか顔をゆがめる。
「イヴン、エーファをかばってくれてありがとう」
イヴンのかたわらにちょこんと座り、リプリーは深く頭を下げた。
「そんな、僕の方こそ、かえって心配をかけさせてしまって……ごめんなさい」
「すまない。私がいたらぬせいで」
やにわに、エーファはイヴンの怪我をしていない方の手をきつく握りしめた。
「この恩は絶対に忘れない。イヴンに何かあった時は、必ず手助けすると誓おう。そして責任をもって、イヴンをヴルカーンベルクまで連れて行くと約束する!」
おおげさです、と首を振るイヴンと、感激して目頭を押さえるリプリー。
その横では、エーファに首を絞められ失神寸前のイェンの姿があった。
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