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「もう行くよー」
ピアノのレッスンの時間が近づいていた。わたしの呼ぶ声に娘たちはめずらしく一度で従い、駆け戻ってくる。
「ママ」
「なあに」
「あのね、枯れ葉で遊んだの。さっきいた子とその子のパパと」
「あのサングラスかけた人?」
「うん。ここにおっきなお怪我があった」
「おばあちゃんは?」
「おばあちゃん、少しへんだけど作ってくれるごはんは美味しいって言ってたよ」
次女はわたしの問いに無関係な返事をした。
すぐそばの木でかくれんぼが始まって、鬼になった男の子が数をかぞえている。
いーーち、にーーい、さーーん、よーーん、
一緒に遊んでいることは遠目に見ていたので、帰り際に一声挨拶したかったのだが、父子も祖母らしき人もみつけられない。
ごーー、ろーーく、なーーな、はーーち、
「お友だちはもう帰った?」
わたしは娘たちにきくが、下の娘はやはりわたしの質問にはこたえず、言った。
「あのね、あの子のパパが急に倒れて、りおと、おねえちゃんと、三人で埋めたのよ」
「葉っぱに?」
「うん」
男親の遊びはときに、とても大胆だ。汚れても気にならない服を着ていたとしても、わたしは枯葉に埋められるなど、お断りだ。三人で公園の出口に向かう。
「楽しかったね。遊んでもらえてよかったね」
「……」
歩きながら言うが、わたしは娘たちの様子に異変を感じていた。さっきから上の娘が何も言わないのだ。
「あのね」
「なあに」
もーーいーーかい、
まーーだだよ
小学生くらいの男の子数人が、私たちを追い越していく。
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