あるルポライターの手記

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 「天使」のいる地のことは、ある国のある地方とだけ記しておく。  その地の民は、他の地域との交流を絶ち、自給自足で独立して暮らしている。かといってよそ者を排除する思想があるわけでもなく――それは私たちのような者には幸いなことである――交流を阻むのは、周囲の過酷な地形であった。全方位を絶壁に囲まれており、行き来するためにはそこを下り、上らなければならない。それも並大抵の高さではないので、入念な準備とトレーニングなしには入ることすら叶わない。私はそのために数か月のトレーニングを余儀なくされた。  さて、その地へ私がいくことになった経緯だが、これは取材が目的であった。  その時期フリーになった私は小さな仕事をいくつか終えて、次の仕事を求めつつ久々の休みを堪能していた。そこへ、ちょうど雑誌を立ち上げたばかりの知り合いから声がかかってきたのである。断る理由も特になかったため、私はすぐに快諾した。     
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