あるルポライターの手記

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 さて、ようやくその地へ足を踏み入れた私たちであったが、断崖の下は緑の聖地であった。  力強い生命力に満ち満ちた樹木、流れる清流の透明度。砂の一粒すら鮮やかに色づいている。頭上ではちいさな獣が樹木から樹木へ驚くべき速さで跳び回り、聴いたこともない美しい声あるいは不気味な声の鳥が鳴いて、野生の生命力を発揮していた。 「いまの季節は危険がありません。ちがう季節であると、まれに、大きい獣たちがいます」  といいながら、ユ・リィが樹木を指さす。  よく見れば、爪をとぐのに使ったのか、獣の爪痕が深く刻まれ、折れ曲がった幹があった。しかもその爪痕は、なんと地面から二、三メートルはある場所であった。そんなことができる獣がこの地にはいるのだ。恐ろしいとともに、気分が昂揚するのがわかった。  こうして豊かすぎるほどの自然を満喫して、私たちは無邪気に、子どもに戻ったように感動した。  「天使」の噂が単なる噂にすぎないものだったとしても、この大自然だけで十分な記事ができる。カメラマンも興奮ぎみでしきりにシャッターを押していた。持参したフイルムの半分を、彼は行きの道のりで消費した。     
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