あるルポライターの手記

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 集落に到着すると、私たちはその地の民から厚い歓迎を受けた。集落は未開の地の集落然としており、いくつかそういった地域を取材したことのある私にとってはさほど目新しいものはなかった。素朴な木や粘土で作られた家に、素朴な住民たち。さすがにあの断崖を超えられる資材や技術者はないとみえて、電子機器や鉄の建物はなかった。  集落に入ってすぐ、ユ・リィからまじない師の老婆を紹介された。  挨拶もそこそこに、私たちはまじない師の指示で「天使」と会うための儀式を執り行うことになった。  まず禊。清流を流し込んだ池の中に頭のてっぺんまで浸かり、外界のケガレをはらう。私たちが神社で手と口を清めるように、この地でもまず身を清めることが必要らしかった。  そして裸のまま、その地で最も太陽の光が当たるという大きな岩に座り、まじない師からの説法を聞く。禊をしてもなお邪心があるものはこのときに岩から炎が上がり、その身が焼かれると信じられている。実際にそれを見たという民もいたが、私たちはそのような目に遭わずに済んだ。  最後に、その晩の宴でその地のものを食らう。そうすることでその地のものと一体化し、仲間として認められるのである。私は日本神話のイザナミや、ギリシャ神話のペルセポネーの話を思い出した。とすればこの地は、「あの世の世界」であろうか。現代の社会から断絶されているという意味では、この地はあの世とも等しい場所かもしれなかった。
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